「新しい刺激が欲しくて、沖縄の外に出てみたくなったんです」——そう話すのは、岐阜県・奥飛騨の温泉旅館「ひらゆの森」で働く阿嘉龍太郎さん(20歳)。沖縄出身、いろんなアルバイトを転々としてきた彼にとって、これが人生初のリゾートバイトでした。
決め手は、寮があること、そして自然があること。「その2つさえあれば、どこでもよかった」。紹介された案件の詳細を見たその日に、即決で半年契約。海の沖縄から、森に囲まれた奥飛騨の暮らしへ——。まだ働き始めて約1ヶ月という“リアルタイム”だからこそ聞ける、飾らない本音を伺いました。
| お名前 | 阿嘉 龍太郎さん(あか りゅうたろう) |
| 年齢・性別 | 20歳・男性 |
| 普段の生活 | 沖縄出身。アルバイトをしながら生活するフリーター |
| リゾバ時期 | 2026年7月下旬〜2027年1月(半年間の予定)※取材時は2ヶ月目 |
| エリア・施設 | 岐阜県・奥飛騨/高山市「ひらゆの森」 |
| 職種 | 施設管理(露天風呂清掃)+レストランのホールスタッフ |
「寮と自然があればいい」——即決だった、初めてのリゾバ
リゾバという選択肢を知ったのは、約1年前。当時は沖縄でリゾバを考えていたものの、問い合わせたときには案件がすべて埋まっていました。そこから約1年、地元でアルバイトを続けるうちに、ある気持ちが芽生えます。
── 数あるバイトの中で、なぜリゾバを?
新しい刺激が欲しいなと思って。沖縄の県外に出て、遊んでみたくなったんです。でも遊ぶとなると、やっぱり生活費がかかるじゃないですか。その点リゾバは、住む場所があって、衣食住が提供されて、仕事もある。勤務先の周りだったり、少し離れた場所だったり、新しい環境で遊べる。「じゃあ行くか」って、即決でしたね。
最初に紹介されたのは岡山県の案件。それが途中で難しくなり、代わりに案内されたのが「ひらゆの森」でした。
── 即決に至った決め手は?
もう、直感ですかね。詳細を送ってもらって、その日に「これだな、行こう」って思いました。僕、自然が好きなので。ここら辺はどこに行っても自然に囲まれている環境なんです。職場の中庭にも緑があって。それが僕にとって、すごく魅力的でしたね。
職種や仕事内容、場所へのこだわりは、ほとんどなかったといいます。譲れなかったのは「寮」と「自然」の2つだけ。奥飛騨・高山という土地は行ったこともなく、地元から車で1時間ほど離れた山あいですが、距離もまったく気にしませんでした。
阿嘉さん寮と自然さえあれば、正直どこでもよかったんです。
── 行く前、不安はありましたか?
不安よりも、ワクワクの方が勝っていました。あんまり不安はなかったですね。ただただ、楽しみだなって感じでした。
ひらゆの森での“ある一日”:朝は露天風呂、昼は森、夜はレストラン


阿嘉さんの仕事は、午前と午後で内容が分かれる少し珍しいスタイル。午前は露天風呂の清掃、午後は旅館内レストランのホール。その間には、たっぷりの“中抜け”時間があります。
| 起床(7時ごろ) | 7時に起きて準備。露天風呂の清掃は8時スタート |
| 午前(8〜12時) | 露天風呂の清掃。開店時間までに洗い、お湯を張り終える |
| 中抜け(12〜16時半) | 風呂に入り、まかないの昼食。残り時間は音楽・読書・散歩など自由に |
| 午後(16時半〜) | 旅館内レストランでホール業務。宿泊客の予約制で、比較的ゆったり |
| 退勤(20時半〜21時頃) | 片付け含め21時ごろまで。夜食(弁当・サンドイッチ等)が用意されている |
昼食は、午前に勤務する従業員の方が作ってくれるまかない。「今日は白米・味噌汁・チキン・サラダ、みたいな。日によってメニューが全然違って、バイキング形式で好きなだけ取れるんです。お腹いっぱい食べています」。厨房裏に6人ほどが座れる席があり、食費をかけずにしっかり食べられる環境です。
── 中抜けの時間は、どう過ごすんですか?
音楽を聞いたり、本を読んだり、散歩したり。職場の裏に林があって、小道をたどっていくと森の中を探検できるんです。職場から直接そのルートに入っていけて。前に散歩したときは30分くらいぐるぐる回って。その道が僕たちの施設だけじゃなくて、周辺の街の小道にもつながっていたりして、面白いんですよ。
午後のレストランは、宿泊者の予約制。メニューがあらかじめ決まっているため、追加の注文が中心で、オーダーが飛び交うような忙しさはほとんどありません。満席の日はキッチンもホールも忙しいですが、それ以外は基本、みんな自分のペースで動ける印象です。



困っていると察したら、向こうから手を差し伸べてくれる。
チームの団結力があるんです。
「わからないことは教えてくれるし、こっちが困っていたら向こうから声をかけてくれる。みんな基本、仲良く楽しく、気楽に仕事しています」。人にもお客様にも恵まれた職場だといいます。
正直、しんどかったこと:一人きりの露天風呂清掃
ポジティブな話が続きますが、最初の数週間は本当に苦しかった、と阿嘉さんは正直に打ち明けます。その舞台が、午前の露天風呂清掃でした。
── しんどかったことは?
最初の1〜2週間、露天風呂の掃除が結構きつくて。開店時間までに、洗ってお湯を張り終えなきゃいけないんです。お客さんが来るまでにお湯が半分しか溜まっていないと、クレームになってしまう。しかも一人でやる仕事なので、やり方は教えてもらえても、効率のいいやり方がわからなくて間に合わない。最初の頃はすごく焦っていました。
1週目は時間内に掃除が終わるのかと、絶望していました。「この先どうなっちゃうんだろう?」って。一人作業なこともあってなかなか相談もしづらく、自分で工夫するしかない——その難しさが、初めてのリゾバの最初の壁でした。ところが、転機は3週目に訪れます。
3週目くらいから、他のスタッフの方たちが、また1から丁寧に教えてくれる機会があって。それでようやく手順やペースをつかめてきました。



最初の1週目は大変でしたが…案外、慣れるものですね。
お金のリアル:月17〜18万円、そして“使わない環境”
取材時点でまだ初任給を受け取る前でしたが、お金まわりの見通しも具体的に聞きました。
| 時給 | 約1,100円 |
| 月の手取り(見込み) | 約17〜18万円 |
| 勤務日数 | 週5日(月・火が休み) |
| 寮費・食費・光熱費 | いずれも負担なし(まかない・夜食つき) |
| 貯蓄目標 | アルトサックス購入資金(新品で約60〜70万円) |
特筆すべきは、支出がほとんど発生しない環境。「よく使わなければ、お金は減らないですね」と阿嘉さんは笑います。近くにあるのは小さなコンビニ2軒と、生活雑貨から食料・飲み物まで揃う商店が1軒(夜8時ごろまで)。夜には店も閉まり、そもそも消費を掻き立てるものが少ないのがいいですね。
── お金の感覚は、地元にいた頃と比べて?
地元にいた頃は、訳もなくお酒を飲んだり、歩いていてコンビニを見つけたら「あ、コンビニだ、なんか買おう」みたいな感じで。でもここは、街と違って消費額を掻き立てられるものがあまりない。お金の面での誘惑は、かなり少ない場所だと思います。だいぶ節約になっていますね。
お金が目的で来たわけではないという阿嘉さんですが、貯めたお金には使い道がありました。地元でDJをやっていた彼が今ほしいのは、かつて3年ほど吹いていたアルトサックス。「もう1回やりたいなと思って、今その資金を貯めています」。半年働き終える頃には、ちょうど手が届きそうだといいます。
休日の過ごし方:バイクで“天国も地獄も”味わった名古屋一人旅


週2日(月・火)の休み。屋内・屋外は半々で、近所を散歩したり、ベッドでのんびりしたり。そんな阿嘉さんが一度だけ、思い立って遠出をしました。
── 遠出をした話、聞かせてください
唐突に「バイク乗りたいな」と思って。バスで1時間くらいの街にレンタルバイク屋さんがあって、そこで1日借りて、名古屋の少し上の犬山まで行きました。マップもちゃんと見ずに走って(笑)。しかも途中でずぶ濡れになって。ちょうど犬山城でお祭りをやっていたので寄ってみたり、神社を参拝したり。帰りはガタガタ震えながら5〜6時間バイクを走らせて帰りました。



天国も地獄も、どっちも味わったような感覚でしたね(笑)。
バイク旅の醍醐味を丸ごと味わった一日。「バイク旅のいいところも悪いところも、全部詰まっていました」。もう一つのお気に入りは、車で1時間ほどの街にある美術館「光ミュージアム」。
古い絵画やめちゃくちゃ古い土器、刀、それにサッカー選手のユニフォームやイチロー選手のグローブまで展示されていて。空間芸術みたいなものもあって、建物の見た目も海外の世界遺産みたいで。3〜4階まであって結構広くて、超面白かったですね。
この光ミュージアムには、レストランの店長と一緒に出かけたそう。普段は「あまり他人に深入りしないようにしている」という阿嘉さんですが、職場に自然な交流があることも伝わってきます。
1ヶ月で学んだ、“自分への許可”という感覚
行く前のイメージとのギャップを尋ねると、返ってきたのは「思っていたより、みんな温かかった」という言葉でした。
── イメージと実際で、ギャップは?
もっと制限が多いのかなと思っていたんです。でも意外と制限があまりなくて、結構気楽に、自由に過ごせる感じで。お客さんも従業員の方たちも、すごく温かい人が多い印象でした。それが僕の中でのギャップでしたね。
まだ1ヶ月ながら、この経験は阿嘉さんの内面にも変化をもたらしていました。最初は緊張でうまくコミュニケーションが取れず、仕事にも焦りが出ていたといいます。
── リゾバを通して、学んだことは?
周囲とのつながりの大切さを、すごく学びました。思っていることをちゃんと伝えないと、仕事も回らないし、自分の中に不満が一方的に溜まって孤独になっていく。でも周りの人たちのサポートがあったので、こちらからも心を開きやすくて。「意外と、思っていることを普通に言っても大丈夫なんだ」「自分のやりたいようにやっていいんだ」って、自分への許可みたいなものを持ちながら働くと、すごくやりやすくなったんです。



“自分への許可”を持って働くと、すごくいい循環が生まれるんです。
ちょっとした人とのつながりの中で、これまで触れたことのない価値観に出会う——。その日常こそが、阿嘉さんにとってのリゾバの学びでした。「まだ1ヶ月目ですが、きっとすごく思い出に残る場所になるだろうな、という実感があります」。
これからリゾバを考えている人へ


── 迷っている人に、一言かけるとしたら?
迷っているなら、1回やってみてもいいんじゃない、と思いますね。僕は半年ですが、他の方だと2ヶ月・3ヶ月の人の方が圧倒的に多いので。まずは2ヶ月くらい、旅行がてらみたいな気分でやってみてもいいんじゃないかな。そんなに「仕事しに行くぞ」って感じでやるものでもないのかなと思います。もうちょっと気楽に、旅行がてら働くくらいの感覚で。
実は阿嘉さん、半年契約にしたのは「何も考えずに」決めたのだそう。「普通のアルバイトだと2〜3ヶ月だと落とされることもあるじゃないですか。念のため半年って言って来たんですけど、周りに聞いたら、みんな3ヶ月とかで全然OKで(笑)」。初めてゆえの、微笑ましい“やりすぎ設定”。とはいえ——
でも、ここだったら半年続けられそうだな、って感じています。
── これだけは、という準備は?
本当に、気楽でいいと思います。あんまり気負わず、旅行がてらの気持ちで来るくらいがちょうどいいのかなと。
「寮と自然があればいい」——たったそれだけの動機で飛び込んだ半年が、阿嘉さんに新しい土地、新しい仕事、そして“自分への許可”という気づきをくれました。難しく考えず、旅行がてらの気持ちで。彼の飾らない言葉は、最初の一歩を迷っている人の背中を、そっと押してくれます。




