シンガポール在住の大学生・但見環さんが、夏休みの2ヶ月で見つけたもの
「バイトをしたことが、一度もなかったんです」――そう話すのは、シンガポールの大学に通う但見環さん(19歳)。小学6年生から海外で暮らし、この夏は3ヶ月の長い夏休みで一人日本へ帰国。その時間を使って選んだのが、人生で初めてのアルバイトを、箱根の旅館「箱根吟遊」でのリゾートバイトで飾る、という選択でした。
初バイトが、いきなり住み込みの高級旅館。緊張と不安のスタートから、2ヶ月後には「シンガポールでも働いてみようかな」と思えるまでに――。自然に憧れ、美術館に通い、思いがけず20万円のカメラまで手にした彼女の2ヶ月を、たっぷり伺いました。
| お名前 | 但見 環さん(たじみ たまきさん/仮名) |
|---|---|
| 年齢・性別 | 19歳(取材時)・女性 |
| リゾートバイト時期 | 2026年5月中旬~7月中旬(約2ヶ月間) |
| エリア・施設 | 神奈川県・箱根「箱根吟遊」 |
| 職種 | ラウンジスタッフ(ドリンク・接客) |
| 働き方 | 週4〜5日勤務/月10日休み(13時〜22時ごろ) |
「自然のある場所で働きたい」から始まった、初めてのバイト探し
小学6年生から8年間をシンガポールで過ごしてきた但見さん。「一年中夏で、35度くらい。衣替えがないのは楽だけど、自然がすごく少なくて」。この夏の帰国で彼女がまず考えたのは、自然豊かな場所で働くことでした。
── そもそも、なぜリゾートバイトを?
夏休みが3ヶ月もあって、時間が長くて。これまでバイトをしたこともなかったので、いい経験になるかなと思って。日本の家は千葉にあるんですけど、今回は一人で帰ってくることになって。家にいても食べるものもないし、住み込みでご飯も住む場所もあるのがいいなと思って、住み込みで探しました。
最初に目をつけたのは、長野の上高地。「シンガポールに本当に自然が少ないので」という思いから、リゾートバイトの派遣会社で探し始めます。ただ、ゴールデンウィーク明けというタイミングもあり、なかなか希望どおりには進みませんでした。
── 箱根に決まった流れは?
求人サイトからリゾートバイトに申し込んだら、「日にちを決めてお話ししませんか」と連絡をいただきました。最初は上高地の自然に憧れてたんですが、【ゴールデンウィーク直後】で【期間は2ヶ月】という条件に合う求人がなかなか見つけられなくて。
ヒアリングを受けた後に「箱根は今の時期、海外のお客さんが多いのでいいかもしれないですよ」と紹介してもらったのがきっかけです。
但見さんにとって箱根は、それまで旅行で訪れたこともない土地。けれど話をもらってすぐに調べてみると、あることに気づきます。
環さん「箱根、美術館がいっぱいある」って気づいて。それで行こうと決めました!
大学ではインテリアデザインを専攻し、アートに関心のある但見さんにとって、これは大きな決め手に。海外からの旅行者が多く英語に触れられる環境、豊かな自然、そして数多くの美術館――条件が重なり、初めての土地・箱根での2ヶ月が決まりました。


── 初めてのバイト、不安はありましたか?
初日はもう、すごく緊張して。到着してからしばらくは、受け入れの準備でみんな慌ただしくしていたので、少し待つ時間もあって。「私、ちゃんとここでやっていけるのかな」って、そわそわしていました(笑)。でも、人の入れ替わりが多い時期だったみたいで、他のリゾートバイトの子も「最初はそんな感じだったよ」と言っていたので、そういうものなんだなって。
家族には「バイトしようと思うんだよね」と相談して、初めてのバイトということもあってかなり心配されました。「その派遣会社、本当に大丈夫な会社なの?」って。でも私は結構楽観的な性格なので、「なんとかなる、楽しいでしょ」という感じで(笑)。
箱根吟遊での“ある一日”:昼から出勤、夜はサプライズの舞台裏
但見さんの担当は、ラウンジスタッフ。受付とラウンジが同じ5階にあり、ドリンクを作ってお客様に提供するのが主な仕事です。1階にあるバーにヘルプで入ることもありました。シフトは日によって開始時刻が変わるスタイルでした。
| 起床(10時ごろ) | 寮に洗濯機付き。午前中に洗濯を回して干す、が“ちょうどいい”ルーティン |
| 出勤(13~15時) | シフトにより13〜15時開始。出勤時間が遅い日は仕事前に出かけることも |
| 14時ごろ | チェックイン開始。お客様にウェルカムドリンクを提供。以降は比較的落ち着いた時間 |
| 18〜20時(繁忙) | 夕食開始に合わせ、部屋へオーダードリンクを運ぶ。一日で一番忙しい時間帯 |
| 20~21時ごろ | 夕食がひと段落し、以降はバーのヘルプや片付けなど |
| 退勤(21~23時) | 早番なら21~22時、遅番でも23時ごろ。終電に合わせ早めに上がらせてもらえた |
寮は電車で一駅の場所。駅までは徒歩5分、電車の時間を入れても15分ほどで帰れる距離でした。「終電の11時に間に合うように、と早めに上がらせてもらえて。平均すると22時くらいには寮に帰れていました」。食事は昼・夜のお弁当が2食支給され、住まいも食事もほぼ賄われる環境だったといいます。
── 印象に残っている仕事は?
いい旅館だったので、サプライズを毎日平均5件くらいするんです。多い時は10件、少ない時で3件くらい。誕生日やウェディング、結婚記念日…。中には、ラウンジでプロポーズされる方もいて。飾り付けをして、ロビーからお客様をその場所にお連れして「おめでとうございます」って。特に外国のお客様は泣いて喜んでくださる方もいて、大変なんですけど、そこまで喜んでもらえると「やってよかったな」って思える仕事でした。


全20部屋の宿のうち多い日は半分ほどが外国人客。普段から英語に触れている但見さんにとっては、自身のスキルが活かせる場でもありました。
── 大変だったことは?
エレベーターが1つしかなくて。しかもお客様用なので、スタッフが飲み物を運ぶのに使うと、なかなか来ない。特にビールは泡が消えると大変なので、来ないときは1階から歩いて階段で上がったり。5階建てで、ドリンクを作る場所が一番上なので、最終的にそこに戻ってこなきゃいけなくて。「いい運動になるね」って(笑)。
慣れるまでの1ヶ月。武器は「メモ帳」と「やる気」
初めての仕事で、最初は「全部が初めてで大変だった」という但見さん。特に不安だったのが、長くシンガポールで暮らしてきたゆえの日本語の敬語でした。
── 言葉の面で苦労は?
お客様の対応もするし、同僚とどういう話し方がいいんだろう、と思っていて。でも、ネパール人のスタッフさんがすごくフランクに話してくれたり、正社員の方も「こういう言い回しの方がいいよ」と教えてくれたり。最初に「慣れてないので、何かあったら言ってください」と伝えていたのもあって、みんな気にかけてくれました。
もう一つの壁が、ドリンクのメニュー。「このお酒はこのグラス、この氷、この量、と覚えることがたくさんあって、メモにびっしり書いていました」。デキャンタといった専門用語にも最初は戸惑ったそうですが…。



口頭の説明だけじゃ分からないので、『今から入るから後ろで見ててね』と言われて、現場で覚えていく感じでした


こうして働きながら覚え、1ヶ月ほどで「だいたい大丈夫」という手応えに。だからこそ但見さんは、これから行く人へのアドバイスとして「やる気」と「メモ帳」を挙げます(詳しくは後半で)。
お金のリアル:2ヶ月で約40万円、そして思いがけない買い物
「お金を貯めるため」に始めたわけではない但見さんですが、結果はしっかりと残りました。
| 貯まった額 | 約40万円(2ヶ月) |
| 勤務時間 | 合計 約300時間+α |
| 勤務日数 | 週4~5日(2~3日働いて1日休みなど変則シフト) |
| 住まい・食事 | 寮あり/昼・夜のお弁当支給で食費はほぼゼロ |
| 主な出費 | 退勤後の買い食い、小田原への外出(片道約1,000円) |
寮も食事も賄われるため、生活費はほとんどかかりません。「終わるのが11時ごろで、夕食を早めに食べるので、終わった後にお腹が空いて買い食いする子が多かったかも。あとは休みの日に小田原へ降りると、片道1,000円くらいかかるくらいですね」。
── バイトで貯めたお金の使い道は?
使い道は全然決めていなかったんですけど…。一緒に働いていた友達に写真をやる子がいて、その影響で、20万円くらいのカメラを買いました(笑)。私、建築が好きでインテリアデザイン学科なので、写真を撮るのも大事だなと思って。せっかくの機会だし、と。残り半分は貯めておこうかな、という感じです。
予定になかった大きな買い物。けれどそれは、リゾートバイトならではの出会いが生んだ投資でした。専攻にもつながるカメラは、この2ヶ月がくれた思いがけない財産になりました。
休日は美術館へ:モネ、彫刻の森、そして小田原の街
箱根を選ぶ決め手にもなった美術館。休日の但見さんは、その魅力を存分に味わっていました。
── 休みの日は何を?
美術館が結構あったので、お昼くらいに行って、その辺で夜ご飯を食べて帰ってくる、みたいな。全部で3つくらい行きました。ちょうどポーラ美術館でモネの展示をしていて、それが一番すごく良かったです。彫刻の森美術館も、電車で2駅くらいで本当に近くて。御殿場のアウトレットもバスで45分くらいなので、休みの日に行くのにちょうどよかったです。


買い出しや息抜きには、1時間ほどで降りられる小田原の街へ。カラオケもドンキも一通りそろっていて、「基本的にはそこで1日過ごして帰ってくる」のが定番だったそう。
── 職場の人とは仲良く?
シフトの休みがそんなにかぶらないので、基本は一人でどこか遊びに行っていました。でも、休みが合った時はみんなで遊んで。すごく仲が良くて。シンガポールに帰ってくる前には、女の子含めて5人くらいで遊びに行きましたね。今も連絡を取っています。


職場で出会ったのは、実にさまざまな背景を持つ人たち。「貯めたお金でワーホリに行く」という人、陽気なネパール人スタッフ、同じResort Cross経由でイタリア・ミラノから帰ってきて2ヶ月働いているという人――。「みんな経験が違うなあって。話していて面白かったです」。
行く前のイメージとのギャップ、そして今に残ったもの
── 行く前と実際で、ギャップは?
仕事をするのが初めてだったので、みんなキリキリしているのかな、怖いのかな、と思っていたんです。でも実際に働いてみると、結構みんな優しくて。時間が空くと普通にお話ししたりもして、みんな仲良く楽しくできる環境でした。
楽観的な性格もあり、自分自身が「つらかった」と感じることはほとんどなかったという但見さん。一方で、「怒られて泣いてしまった友達もいた」とも。仕事には向き・不向きがあり、環境や人に恵まれるかどうかも大きい――そのリアルも、率直に語ってくれました。
── リゾートバイトを経て、今につながったことは?
すごく人生においていい経験になりました。今シンガポールに帰ってきて、「じゃあシンガポールでも働いてみようかな」という気持ちになりましたね。あと、箱根は美術館も良かったし景色も綺麗だったので、また行きたいなって。友達が来たら案内できそうだなって思います。
旅館にはその後カフェもでき、「箱根に遊びに来たらカフェにだけでも来てね」と声をかけてもらったそう。辞めるときも、みんなが「また来てね」と見送ってくれた。





リゾートバイトの期間が終わるときも『また来てね』って言ってくれて。みんな、本当に優しいんです。
人生初のアルバイトは、「また戻ってきたい場所」になりました。日本には毎年夏に帰国し、今年は成人式もあり冬にも帰る予定とのこと。次に箱根を訪れる日も、そう遠くなさそうです。
これからリゾートバイトを考えている人へ
── 迷っている人に、一言かけるとしたら?
もし迷っているなら、とりあえず行っちゃっていいと思います。普段会えないような人との出会いもあるので。もし仕事が自分に合わなかったとしても、上の人に相談して改善できることもあるし、旅館の中にはいろんな部署があるので、「ここが合うかな」というところに変更することもできるんです。
実際、最初はフロントで接客をしていた友人が、最終的にラウンジでドリンクを作る側に移ったケースもあったそう。
いろんな部署がある中で、ラウンジが一番人気だったと思います。みんなから『楽しそう』ってよく言われていました。
── これだけは準備した方がいい、ということは?
結局は、働き始めてから全部教えてくれるので…。もう、やる気ですかね(笑)。気持ちだけです。あとは、メモ帳をいっぱい取ること。それは大事だと思いました。
バイト未経験・初めての土地・住み込み――不安の材料は揃っていたはずなのに、但見さんの2ヶ月は驚くほど前向きなものでした。その根っこにあったのは、「自然のある場所で働きたい」「美術館に行きたい」という、自分の“好き”に素直な動機。とりあえず飛び込んでみたその先に、新しい出会いも、思いがけない買い物も、また戻りたい場所も待っていました。迷っているなら、まずは一歩。彼女の言葉が、そっと背中を押してくれます。
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