石川県で暮らしてみたい。でも、貯金を切り崩してまで踏み切れるかというと自信がない——。移住を考えはじめると、ほとんどの人が一度はお金の壁にぶつかります。
石川県には「単身なら60万円」という大きな移住支援金があります。ただ、条件を読み込んでいくと、実際には対象外になってしまう人が少なくありません。一方で、あまり知られていないけれど単身でも使いやすい制度も、市町レベルにはいくつも用意されています。
この記事では、石川県の移住に関わる補助金・支援金を「単身でももらえるかどうか」という軸で整理しました。金額の大きさ順ではなく、自分が使えるかどうかで判断できる並びにしています。
石川県の移住補助金は、大きく3つのタイプに分かれる
制度名を並べる前に、全体像を押さえておくと迷いにくくなります。石川県で使える支援は、次の3タイプに分けられます。
- ① 県全体の制度:金額が大きい代わりに、条件が厳しい(いしかわ移住支援事業・起業支援金)
- ② 市町独自の制度:金額は小さめだが、条件がゆるく単身でも使えるものがある
- ③ 移住前の「下見」に使える制度:交通費・宿泊費の補助など
多くの人が①だけを見て「自分は対象外だ」と諦めてしまいますが、実際に手が届きやすいのは②と③です。まずは早見表で確認してください。
| 制度名 | 金額 | 単身 | 主な条件 |
|---|---|---|---|
| いしかわ移住支援事業(就業) | 単身60万円世帯100万円 | ◯ | 東京23区に5年以上在住・通勤 → 県内の対象法人に就業 |
| いしかわ移住支援事業(テレワーク等) | 単身60万円世帯100万円 | ◯ | 東京23区に5年以上在住・通勤 → 移住後もテレワークで継続勤務 |
| 起業支援金 | 最大200万円(補助率1/2) | ◯ | 東京23区の要件+県内で地域課題解決型の起業をすること |
| いしかわUIターン就業促進助成金 | 実費最大5万円 | ◯ | 県内企業の面接・見学などで来県すること |
| 市町の就業奨励金(志賀町など) | 10万〜20万円 | ◯ | 転入後1年以内に地元企業へ就職するなど |
| 市町の家賃補助(珠洲市・七尾市など) | 月1万〜3万円 | 一部◯ | 市町内の民間賃貸住宅に入居すること |
| 市町の住宅取得奨励金 | 数十万〜数百万円 | 一部◯ | 住宅の新築・購入が前提。世帯限定のものも多い |
| 市町の創業補助(能登町・川北町など) | 25万〜300万円 | ◯ | 町内で創業・事業継承すること |
◯=単身でも申請できる可能性がある制度/一部◯=自治体によって世帯限定の場合がある
いしかわ移住支援事業(単身60万円・世帯100万円)
石川県の移住支援の中心にあるのが「いしかわ移住支援事業」です。国の地方創生移住支援事業を石川県と県内全市町が共同で実施しているもので、金額の大きさでは群を抜いています。
支給額は単身60万円、世帯100万円
- 世帯で移住する場合:100万円(18歳未満の子1人につき100万円を加算)
- 単身で移住する場合:60万円
子育て加算が1人あたり100万円と大きいため「家族向けの制度」という印象を持たれがちですが、単身でも60万円が対象です。単身移住では、これが最大の支援になります。
対象になるのはこんな人
金額が大きいぶん、条件は細かく決まっています。ざっくり言えば「東京23区から石川県へ移る人」向けの制度です。
- 住民票を移す直前に、連続して1年以上、かつ直前10年間のうち通算5年以上、東京23区に在住または通勤していたこと
- 石川県内へ移住すること
- 移住支援金の対象法人に就業する、テレワークで移住前の仕事を続ける、県内で起業する、などの要件を満たすこと
就業要件で申請する場合、応募先は自由に選べるわけではありません。県が運営するUIターン者向け求人サイト「イシカワノオト」に掲載された、移住支援金の対象求人へ応募して就職する必要があります。一般の求人サイト経由で県内企業に就職しても対象にならないため、転職活動を始める前に確認しておくのが安全です。
なお、2021年4月1日以降の移住者のうち、プロフェッショナル人材事業または先導的人材マッチング事業を利用した高度人材については、イシカワノオトへの求人掲載がなくても支援対象になります。
テレワークで移住する場合も同額が対象
移住後も東京の仕事をリモートで続ける場合は、テレワーク・関係人口の枠が用意されています。支給額は就業の場合と同じく、世帯100万円・単身60万円(18歳未満の子1人につき100万円加算)。窓口は県の地域振興課です。
石川県は北陸新幹線で東京から2時間半ほど。フルリモートの仕事を持ったまま移る人にとっては、現実的な選択肢になります。
この制度は「石川に移住すればもらえるお金」ではありません。申請にたどり着く前に脱落しやすいポイントが3つあります。
① 東京23区の要件が想像以上に狭い
対象は東京23区に在住、または23区内へ通勤していた人です。首都圏に住んでいても、23区外に住みながら23区外の会社に勤めていた場合は対象外になります。神奈川・埼玉・千葉に住んでいて都内の会社に通勤していた人は通勤要件で対象になり得ますが、そもそも関西や中部から移住する人は使えません。
② 就職先が限定される
前述のとおり、就業要件はイシカワノオト掲載の対象求人に限られます。求人数は多くないため、希望職種と支援金の両方を満たす求人が見つからないこともあります。
③ 3〜5年以内に県外へ出ると返還になる
移住支援金は「定住してもらうためのお金」なので、申請日から3年以上5年以内に石川県外へ転出した場合は返還の対象になります。数年で別の場所へ移る可能性があるなら、この点は理解したうえで申請してください。
また、県または市町の予算上限に達した場合は、申請期限より前に受付が終了することがあります。年度の後半に動き出すと間に合わないケースもあるため、早めの相談が確実です。
「自分は23区要件を満たしていない」という方は、後半の市町独自の制度と、記事後半で紹介する「まず現地で働いてみる」という選択肢をご覧ください。
起業・独立するなら、起業支援金で最大200万円が上乗せされる
石川県で店やサービスを始めたい人向けには、移住支援金に上乗せできる「起業支援金(いしかわ移住支援事業)」があります。運営はISICO(公益財団法人石川県産業創出支援機構)です。
- 補助額:最大200万円(補助率1/2以内)
- 移住支援金と合わせると最大300万円
- 対象経費:店舗等の借入費、設備費、広報費など(汎用性の高い備品は対象外になることがあります)
対象になるのは、地域の活性化や地域課題の解決につながる事業で、かつデジタル技術を活用した起業です。加えて、移住支援金と同じ東京23区要件(直前に連続1年以上、直前10年間で通算5年以上)と、指定された期間内に県内で開業届の提出または法人設立を行い、その代表者になることが条件になります。
公募期間が短いので、スケジュールから逆算する
この制度で最も注意すべきなのは公募期間です。令和8年度は4月1日から6月15日17時必着で、すでに受付を終えています。次年度も同様のスケジュールであれば、春先には事業計画書を書き上げている必要があります。
「移住してから、落ち着いたら考えよう」では間に合いません。起業を視野に入れているなら、移住のタイミングと公募時期をセットで組み立ててください。
市町独自の創業支援もある
県の起業支援金は要件が厳しいぶん、市町の創業補助のほうが現実的な場合もあります。
| 自治体 | 制度名 | 内容 |
|---|---|---|
| 能登町 | 創業・継承支援事業補助金 | 町内で創業する新規事業者や既存事業の継承者を支援。創業・継承に係る経費として最大300万円、対象融資の利息を3年間で最大10万円 |
| 川北町 | 創業・起業支援事業 | 創業の場合は上限25万円。移住+起業の場合は上限50万円 |
| 七尾市 | ななお創業応援カルテット | 七尾市・商工会議所・のと共栄信用金庫・日本政策金融公庫の4者が連携し、創業前から創業後まで一貫して支援。移住希望者向けの「iju創業パック」も用意 |
ゲストハウス、飲食店、体験事業など、観光地での独立を考えている人はこれらの窓口が入口になります。
単身でも使いやすい、市町独自の制度
ここからは、県の要件を満たさない人でも手が届きやすい制度です。金額は数十万円規模ですが、条件がゆるく、賃貸住まいの単身者でも使えるものがあります。
奥能登エリア(珠洲市・輪島市・能登町・穴水町)
珠洲市|移住定住促進補助金
市内の賃貸住宅に入居するU・Iターン世帯に対して、家賃の1/2以内を補助する制度です。補助上限は移住1年目が月3万円、2年目が月2万円、3年目が月1万円で、最大3年間。住宅購入が前提でないぶん、移住のハードルが低いのが特徴です。
能登町|定住促進助成金
U・Iターン者および新規学卒者が町内に定住して働く場合に、総額10万円が助成されます。町外に勤務する人も対象です。
輪島市|移住促進住宅
移住者向けの賃貸住宅が用意されています。シェアルームは輪島漆芸技術研修所の研修生を対象としたIターン者向けで、共同キッチン・風呂・トイレの3部屋タイプ。世帯用ルームは単身者を対象外としているなど、タイプごとに条件が異なります。
中能登・羽咋エリア(七尾市・志賀町・中能登町・羽咋市・宝達志水町)
志賀町|ふるさと就業促進奨励金
単身者にとって使いやすい制度のひとつです。町外出身のIターン者(18歳以上60歳未満)が転入日から1年以内に地元企業へ新規就業した場合、20万円が支給されます(1年経過後10万円、2年経過後10万円の2回に分けて支給)。町内出身のUターン者も同額の対象です。
志賀町|みらいとうぶ定住促進奨励金
高浜町東部地区の分譲地に新築住宅を取得する場合、単身移住でも最大390万円という大型の奨励金が用意されています。単身入居で240万円、町内業者に依頼した場合は工事費の2.5%(最大50万円)を加算。町立富来病院の看護師等として就労する場合はさらに100万円が加算されます。
七尾市|移住定住促進補助金
県外から転入して民間賃貸住宅に入居した場合、月額最大15,000円が最長3年間交付されます。一戸建てを新築・購入した場合は最大100万円。
金沢・加賀エリア
加賀市|若年U・Iターン者雇用奨励金
見落とされがちですが、働く本人にも支給される制度です。市外からU・Iターンした20歳以上40歳未満の若年者を正規雇用した場合、事業者と本人の双方に奨励金が支給されます。Iターンなら本人に30万円、Uターンなら本人に10万円。就職先が加賀市内であることが前提です。
金沢市|金沢AIビレッジ形成促進事業
新たに市内に事業所を設けるクリエイターやICTエンジニア等に対し、オフィス開設奨励金、雇用奨励金、改修費等を助成する制度です。フリーランスとして金沢を拠点にしたい人は確認しておく価値があります。
このほかの市町にも住宅取得奨励金や空き家改修の補助があります。ただし住宅取得系は新婚・子育て世帯限定のものが多いため、単身の場合は「賃貸家賃の補助」と「就業奨励金」から探すのが効率的です。
移住前の下見にも補助が出る:いしかわUIターン就業促進助成金
意外と知られていないのが、移住する前の段階で使える制度です。
「いしかわUIターン就業促進助成金」は、県内企業へのUIターン就職を検討している人が、企業見学や面接などで石川県を訪れる際の交通費・宿泊費を実費で最大5万円まで助成するものです(大学・大学院等に在学中の方を除く)。
ポイントは、来県中に生活環境の確認を同時に行ってもよいとされている点です。面接のついでに街を歩き、スーパーや家賃相場を見て回ることができます。
利用の流れ
- 移住・転職マッチングサイト「イシカワノオト」に利用登録する(必須)
- 来県日の前日までに、いしかわ就職・定住総合サポートセンター(ILAC)へ助成金を利用したい旨を連絡する
- 来県し、企業見学・面接、または対象の就職関連イベントに参加する
- ILACへ申請書と領収書等を提出する
- ILACから助成金が支給される
自分で企業にアポイントを取って就職活動をする場合も対象になります。事前連絡が必須なので、旅程を決めたら早めにILACへ。
いきなりの移住が不安なら、リゾートバイトで暮らしてみるという選択肢
ここまで見てきたとおり、金額の大きい制度ほど「東京23区から」「対象求人に就職」といった条件がつきます。条件を満たさない人にとっては、補助金ありきで移住先を決めるより、まず現地で数か月暮らしてみるほうが現実的です。
その手段のひとつがリゾートバイトです。石川県には和倉温泉をはじめとする宿泊施設が多く、住み込みの求人が出ています。
- 寮費・光熱費が無料または低額の求人が多く、生活費を抑えながら暮らせる
- 数か月単位の契約なので、合わなければ次の土地を試せる
- 地元の人や同じように県外から来た人とのつながりができる
- 観光・飲食の現場を内側から見られるため、いずれ地方で起業したい人の下見にもなる
補助金の申請要件を調べるのは、住む場所を決めてからでも遅くありません。「石川で暮らせるか」を先に確かめておくほうが、判断を間違えにくくなります。


申請の流れと、失敗しないための注意点
申請は「移住前の相談」から始まる
移住支援金は、転入してから思い立って申請できるものではありません。就職先が対象法人かどうか、自分が23区要件を満たすかどうかは、移住前に窓口へ確認しておく必要があります。
制度の詳細、移住元・移住先での対象要件の確認については、石川県労働企画課、または移住先の市町の担当窓口が相談先になります。
注意しておきたい5つのこと
- 予算上限に達すると、期限前に受付が終了することがある
- 起業支援金は公募期間が春〜初夏に限られ、事業計画書の準備に時間がかかる
- 移住支援金は使途が自由だが、起業支援金は事業に必要な経費のみが対象
- 申請日から3年以上5年以内に県外へ転出すると返還対象になる
- 市町の制度は年度で内容が変わりやすく、予算がなくなり次第終了するものもある
よくある質問
- 単身でも移住支援金はもらえますか?
-
もらえます。単身の場合は60万円です。ただし、子育て加算のある世帯と比べると金額差は大きくなります。単身の場合は、県の移住支援金だけでなく、市町の就業奨励金や家賃補助を組み合わせて考えるのがおすすめです。
- 東京23区以外からの移住は対象になりませんか?
-
県の移住支援金については、23区に在住または23区内へ通勤していた実績が必要です。関西や中部から移住する場合は対象外になります。一方、市町独自の就業奨励金や家賃補助には、この要件がないものが多くあります。
- リゾートバイトは移住支援金の就業要件に入りますか?
-
移住支援金の就業要件は、県が指定する移住支援金対象法人への就業が前提です。派遣や短期の有期雇用は要件を満たさない可能性が高いため、支援金を目的にする場合は事前に県労働企画課へ確認してください。リゾートバイトは「支援金をもらう手段」ではなく、「移住先を見極める手段」として考えるのが現実的です。
- 複数の制度は併用できますか?
-
県の移住支援金と起業支援金は併用が想定されており、合わせて最大300万円になります。県の制度と市町独自の制度の併用可否は自治体ごとに異なるため、移住先の窓口で確認してください。
- 申請はいつまでにすればいいですか?
-
制度ごとに異なります。移住支援金は年度ごとの受付で、予算上限に達すると早期終了することがあります。起業支援金は令和8年度の場合、4月1日から6月15日17時必着でした。いずれも「年度が始まったら早めに動く」が基本です。
まとめ:金額ではなく「自分が使えるか」で選ぶ
石川県の移住支援は、金額の大きい制度ほど条件が厳しく、条件のゆるい制度ほど金額が小さいという構造になっています。
- 東京23区から移り、対象求人に就職できる人 → 移住支援金(単身60万円)が第一候補
- 地方で起業したい人 → 起業支援金(最大200万円)。ただし公募は春〜初夏
- 23区要件を満たさない人 → 市町の就業奨励金・家賃補助を軸に探す
- 移住先をまだ決めきれていない人 → 就活の交通費補助や、リゾートバイトで現地に住んでみる
補助金は移住の理由にはなりません。暮らしたい場所を見つけたうえで、使える制度を後から拾っていく——その順番のほうが、移住はうまくいきます。
出典・参考
- 石川県 商工労働部労働企画課「いしかわ移住支援事業」(更新日:2026年4月1日)
- 石川県 企画振興部地域振興課「いしかわ移住支援事業(テレワーク・関係人口)」
- 石川県 商工労働部労働企画課「UIターン就職希望者向けの就業支援(交通費・宿泊費)について」(更新日:2026年6月4日)
- ISICO「令和8年 起業支援金(いしかわ移住支援事業)の公募」(更新日:2026年4月1日)
- いしかわ暮らし情報ひろば「支援制度」
- 金沢市「移住支援金」
